茅葺き農家の150年の歴史を定点観測で描いた絵本を要チェック!

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日本の高度成長期の代名詞とも言われる多摩ニュータウン。今でこそ東京を代表するベッドタウンになりましたが、その昔は自然豊かでのどかな里山でした。その状況はジブリの「平成狸合戦ぽんぽこ」でも描かれていましたね。

里山がニュータウンへ開発されるまで、150年間の軌跡を描いた絵本『やとのいえ』が7月20日に刊行されます。昔を懐かしむもよし、これからの都市と農業のあり方に思いを馳せるのもよし。定点観測で描かれた150年の歴史は、私たちに人間文明に関する様々なことを教えてくれそうです。

そんな興味深い絵本を先取りしてご紹介します!

書名:やとのいえ
作:八尾慶次
定価:1,800円 + 税
対象:小学校中学年から
サイズ:22cm×31cm
ページ数:40ページ
ISBN コード:978-4-03-437900-4
発売:2020年7月20日
◎偕成社HP書誌情報:https://www.kaiseisha.co.jp/books/978403437900


『やとのいえ』は、一軒の農家を舞台に、明治時代初期〜現代までの150年間の人々の暮らしの変化をたどる絵本です。「やと」は、谷戸と書き、浅い谷が低い丘のあいだに入り組んでいる地形のことをいいます。かつて人々は、その谷に田んぼや畑を作り、稲作、麦作、炭焼きを中心とした暮らしを送っていました。

その農村の姿を大きく変化させたのは、高度成長期に立てられたニュータウン計画です。戦後、急速に人口がふえた都市部では、住宅の数が不足しました。そこで国や自治体は、人がそれほど住んでいない郊外に、ニュータウンを作ろうと考えました。

その計画によって丘は削られ、谷は埋められていきます。自然豊かだった丘陵地は、団地やマンションが建ち並ぶニュータウンへと姿を変えたのです。

そして、開発がはじまってから半世紀以上がたち、のどかだった日本の農村の多くは、現在の、鉄道や道路が縦横に走る、多くの人口をかかえた郊外の町となりました。本書でモデルとしたのは、東京都の多摩ニュータウンです。

本書では、変わりゆく人々の150年の暮らしを、道ばたの十六らかんさんを語り手に、定点観測で見ていきます。

最初の見開きでは、まだ新しい茅葺き農家のまわりで、たくさんの人が農作業にいそしむ姿が描かれますが、ページをめくるごとに時代が進み、やがて車が登場し、高圧線の鉄塔が建てられ、丘の向こうの空襲におどろく家の住人……。そして、戦争が終わり、ひとときの平穏がおとずれたあとは、村で農作業をする人の姿は少なくなっていきます。幾人もの背広を着た人が村をおとずれたあとでは、美しかった丘は大きく削られ、その土で谷が埋められていきます。ニュータウンづくりが始まったのでした。

農家の屋根を見れば、茅葺きの屋根が時代をへてトタンぶきに変わり、そのトタンぶきの屋根も、囲炉裏を中心とした生活が終わりをむかえるとともに、銅板のものへと変化していきます。

巻末では8ページに渡って各場面を振りかえり、稲作や麦作などの農作業、使われている農具、村の習俗や人びとの様子などをくわしく解説。より具体的な暮らしの変化を知ることができます。

私たちの暮らす町が、現在のようになる前、その土地はどのような地形で、どのような人びとがいて、どのような暮らしが営まれていたのでしょうか。この絵本を読んで、その土地の歴史に思いを馳せ、ときに名残のある場所を訪れる、といったことも豊かな楽しいひとときとなるかもしれません。

【著者紹介】
八尾慶次
1973年、神奈川県相模原市橋本生まれ、大阪府育ち。宝塚造形芸術大学卒業。石仏が好きで羅漢さんを描きはじめ、2013年に「羅漢さん」でボローニャ国際絵本原画展に入選。さし絵に『ウォーズ・オブ・ジャパン 日本のいくさと戦争』(偕成社)、月刊絵本のさし絵に「ばけものがおどるてら」(ひかりのくに)、「おはぎをつくるおばけ」(すずき出版)など。単行本の絵本は本書がデビュー作となる。兵庫県在住。

【監修】
多摩市文化振興財団パルテノン多摩 学芸員 仙仁 径氏


日本の急速な近代化は、かつての里山や農村地帯をある意味、犠牲にして成立してきた経緯があります。

都市部の便利な生活、ITの発展などの恩恵を受けている現代っ子の私たちにとって、この一冊の絵本は、人間が「活かされている」ことの本質的な訴えを孕んでいるような気がしてなりません。

新型コロナの影響などで現代生活の根幹が揺らいだ今だからこそ、こんな素敵な絵本をお子さんと一緒に楽しんでみるのも良いのではないでしょうか。夏休みにそんな「失われたかつての里山」の地に足を運んでみるのも面白いかもしれませんね。

s.yamamoto

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ツチカウ編集部の山本です。マーケティングを生業としながら、米とカボチャを生産する両親を支えつつ、日本の農の未来に想いを寄せています。

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