ハリウッドの伝統と日本映画の最高傑作が融合した『マグニフィセント・セブン』

ライターズコラム

『七人の侍』の2度目のハリウッド・リメイク

2度にわたって、19世紀末アメリカで牧畜業者と開拓農民の対立から起こった大事件、ジョンソン郡戦争を題材にした映画『シェーン』と『天国の門』を取り上げました。
今回は、そのジョンソン郡戦争を参考にしつつ、日本映画の最高傑作と言われる作品を下敷きにしたハリウッド映画を紹介します。『七人の侍』(1954年)のハリウッド・リメイク『荒野の七人』(60年)を、さらに2016年にリメイクした『マグニフィセント・セブン』です。

『七人の侍』については、以前詳しく論じました。野武士の脅威に怯える農民が、侍を雇って村を防衛。身分の違いから多くの軋轢を生じさせながら、最後は力を合わせて野武士を退治する物語です。
この作品は世界の映画界に大きな影響を与えました。多くの映画で用いられる、一つのプロジェクトを達成するために、見ず知らずだった人間たちが集まり、障害にぶつかりながらチームとして乗り越えていくというプロットは、『七人の侍』が原型なのです。

今回、『マグニフィセント・セブン』を取り上げるのは、たんに『七人の侍』のリメイクというだけではありません。ジョンソン郡戦争を『シェーン』や『天国の門』という作品で描いた、ハリウッド映画人のスピリットを受け継ぐ作品として、紹介したいからです。

私兵を雇った資本家という新しい悪役像

『七人の侍』の敵は、合戦に明け暮れる戦国時代が生んだ「豺狼の群れ」野武士でした。1960年にリメイクされた『荒野の七人』は、舞台をメキシコの農村に置き換え、山賊の襲撃に悩まされる農民を、アメリカのガンマン7人が救う設定でした。無法者集団に苦しめられているまっとうな定住農民を、流れ者が救うという構図で2作とも共通しています。

その構図を『マグニフィセント・セブン』は、大きく変更しました。今回の悪役は、資本家のバーソロミュー・ボーグ(ピーター・サースガード)。強引なやり方で金になる土地を略取して事業を拡大し、肥え太ってきた男です。
その力の源泉は、配下の武装集団です。形式上、ブラックストーンという「警備会社」ですが、「女性さえ背後から撃つ」卑劣な連中。その名称や言動は、2003年に始まったイラク戦争で、フセイン政権崩壊後の占領統治にあたるアメリカ要人の警護を名目として派遣された、民間警備会社ブラックウォーターを連想させます。

アメリカ特殊部隊出身者が退役軍人を集めて創設し、政界とも深い繋がりのあるブラックウォーターは、正規軍ではなく民間企業であるため、戦時国際法に縛られることなく行動し、占領地で数々のトラブルを起こしました。2007年、ブラックウォーターのメンバーが無辜のイラク民間人に発砲、17人が死亡した事件は世界に衝撃を与えました。

この映画は、1879年と設定されています。1861年から4年間続き、65万人の死者を出した南北戦争が終わって15年後。激戦を経験して日常に戻れなくなった元兵士、または大規模放牧の時代が終わり行き場のないカウボーイ。『天国の門』における大規模牧畜業者組合が雇った武装集団と同様、ボーグはそんな危険な連中を私兵として利用していたのです。

7人をスカウトしたのは、夫を殺された女性

そのボーグが目を付けたのが、ローズ・クリークという開拓村でした。近くに金鉱が発見されたので、採掘の拠点にしようとしたのです(西部開拓のきっかけとなったのはゴールドラッシュだったことは、『シェーン』について述べた回で触れました)。

金と引き替えに町を立ち退けというボーグの要求に対し、ローズ・クリークの開拓民たちの意見は割れました。住民一同は教会に集まって議論しますが、立ち退き料をもらって退去した方がいいと主張する者もいるなか、開拓民の1人マシュー(マット・ボマー)は、「俺たちは、遠い国から集まってきて、みんなで土地を拓いた。ここは、俺たちの土地なんだ」と抵抗を主張。

そこに、武装した部下を引き連れて乗り込んできたのが、バーソロミュー・ボーグ。教会に火を放って「3週間後にまた来る。それまでに権利譲渡書にサインしておけ」と立ち退きを迫る。マシューは抗議しますが、ボーグは情け容赦なく彼を射殺。買収ずみの保安官に「死体は埋葬するな。見せしめだ」と命じて去っていきます。

極悪非道なボーグのやり口に、立ち上がったのがマシューの妻エマ(ヘイリー・ベネット)でした。彼女は、反対を押し切って自ら宿場町へと向かい、村を守ってくれるガンマンを探します。そこで出会ったのは、賞金のかかった犯罪者を一発で仕留めたサム・チザム(デンゼル・ワシントン)。黒人ながら、7つの州の連邦保安官(定められた地に常駐せず、巡回して治安維持や裁判の進行を司る役職)を務める、頼りになる男。

エマはチザムに、村の窮状やボーグの暴虐を訴え、力を貸してほしいと頼み込みます。「私の夫も、道の真ん中で殺されました」と涙ながらに訴え、「村の全財産です」とお金を差し出すエマに、チザムは「復讐したいのか?」と問います。エマの答えは「目的は正義の実現。人間なら当然です」。
チザムは「礼金はいただく。ただ、全財産は困る」と、助っ人を引き受けるのです。

エマは、『七人の侍』における、妻を野武士にさらわれ復讐に燃える百姓の利吉に当たります。『七人の侍』や『荒野の七人』において女性キャラクターは脇役でしたが、2016年の映画では、いわば開拓村の代表的存在として描かれているわけです。
彼女の依頼で、チザムは6人の仲間を集め、ボーグ一味と戦うことになりますが、エマもまた、銃を手に戦いに参加します。映画の終盤、戦いを締めくくるエマの凛とした姿は、ただただ、かっこいい(個人的に、この映画の主役はエマを含めた「マグニフィセント・エイト(Magnificent Eight/崇高なる8人)」だと思っています)。

7人のうち4人が非白人であることの意味

『荒野の七人』の助っ人たちは、チャールズ・ブロンソン演じるメキシコ系のベルナルドを除いて(ブロンソン自身は東欧のリトアニア系ですが)、すべて白人でした。
『マグニフィセント・セブン』においては、リーダー役のデンゼル・ワシントンがアフリカ系であるだけでなく、東洋系、ヒスパニック系、先住民と、非白人が過半数を占めています(19世紀後半のアメリカでは、カウボーイの7人の1人は黒人だったという説がありますし、定着した中国系移民は10万人を超えていました)。

白人の助っ人たちも、それぞれアメリカ史特有の影を背負ったキャラクターです。
南北戦争で南軍に属し、スナイパーとして勇名を馳せたグッドナイト・ロビショー(イーサン・ホーク)は、戦後、トラウマ(PTSD)に悩まされ、銃を撃てなくなります。
そんな彼の親友は、『七人の侍』の久蔵にあたるナイフ使いの東洋人ビリー・ロックス(イ・ビョンホン)。黒人奴隷解放に反対した南軍の元軍人が、黄色い肌ゆえに差別されていた男と親友になり、コンビを組んで旅をしていたところを、スカウトされたのです。

もう1人、もはや白髪となったジャック・ホーン(ヴィンセント・ドノフリオ)は、かつて300人の先住民を殺した男として恐れられ、今は人里離れた山奥で暮らしています。
何かというと聖書の言葉を口にするジャックは、先住民虐殺というアメリカ建国史のダークサイドを代表していますが、そんな彼が、仲間として戦ううちに、先住民のレッド・ハーベスト(マーティン・センズメアー)との間に友情を育んでいく。

非白人や女性を全面に押し出した物語構成やキャスティングは、単に差別はいけないというポリティカル・コレクトネスに従っただけではありません。
前回の『天国の門』のコラムで、アメリカを世界一の大国に押し上げたのは、次々とやってくる移民の存在が大きかったと書きました。二ノ宮知子の漫画『GREEN』を扱ったコラムでは、女性が経営参加している農業法人の方が業績がよいという統計を紹介しました。

アメリカにおいてチーム(team)とは「異質な価値観、異質な才能、異質な文化を持つ」人々が「共通の目的のため助け合う」ことです(ウィリアム斎藤『ザ・チーム』日経BP)。
外の世界からやってきた、あるいは従来排除されてきた、マイノリティの存在こそが、アメリカを発展させてきたという信念。それこそが、この映画が『シェーン』や『天国の門』から受け継いだ、ハリウッドのよきスピリットとするゆえんであり、現代日本においても学ぶべき教訓だと思います。(参考文献/鶴谷壽『カウボーイの米国史』朝日選書)

福岡貴善

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最近、長野県松本市に引っ越してきたフリーランス・ライターです。20年以上の出版社勤務経験を活かし、大好きな映画、小説、音楽など様々なテーマに絡めて「農」を考...

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