農業経営の観点から見た、現場で使える栽培マニュアルとは

農業のヒント

農作物の栽培方法は、農林水産省が取りまとめる野菜栽培技術指針やネット上に転がる野菜栽培の手引きとしてまとめられ、自由に閲覧することができます。しかし、それらは慣行栽培にすぎず、農家さんは勘と経験でそれぞれ独自の方法を確立しています。ここでは、日頃から農家さんとお仕事している筆者が考える、農業経営の観点から見た、現場で使える栽培マニュアルとは何かをお伝えします。

栽培マニュアルが必要とされるわけ

この場でご紹介する栽培マニュアルとは、農家さん独自の栽培方法を内容に盛り込んだ手引書のことです。基本は外部に公開せず、内部で活用するために作ります。
初めに伝えておきたいのが、農作物は生き物であり、生育は環境に左右されるため、栽培マニュアルがいつ・どんな時でも正しいというわけではありません。マニュアルにどこまで詳細に作業内容を落とし込むかもありますが、毎年施肥量は異なるでしょうし、地域によって使う農薬のルーティーンが異なることも理解しています。

それでもなぜ栽培マニュアルが必要とされるのか。私は下記3つが理由として挙げられると考えています。

  1. 新しい人を雇用するときに、最初のインプットの材料になる
  2. 勘と経験が詰まった独自の農法を可視化できる
  3. 営業の場面で、農産物へのこだわり等を分かりやすく伝える手段となる

① 新しい人を雇用するときに、最初のインプットの材料になる

家族経営から法人へ、経営体の移行期や規模拡大を目指す農家さんにとって、人の雇用は切っても切れない課題です。さらに、新しく人を雇っても、栽培技術の伝承には時間と労力がかかります。そんな場面で、栽培マニュアルは最初のインプット・学びの材料としての役割を果たすのではないでしょうか。

また、栽培マニュアルを作っておくことで、「受け入れ態勢が整っている」状態をアピールすることにも有効だと考えます。実際に、昨年度ある県の自治体さまからのご依頼で、県内の次世代農業経営者向けに栽培マニュアル作成講座を開催しました。講座は全部で4回開催し、最終回では同じ県内の農業高校の生徒さん向けに栽培マニュアルを使って農場紹介をする場を設けました。生徒さんからの反応も良く、質疑応答では、具体的な内容の質問が飛び交いました。

② 勘と経験が詰まった独自の農法を可視化できる

例:マニュアルの中身

前述した、①とも関連しますが、農家さん独自の農法を言語化してマニュアルに落とし込むことで、第3者に伝承するときに役立ちます。日々、栽培日誌をつけている農家さんは多くいらっしゃいますが、栽培マニュアルはそれと違って、全体の流れを把握することができるのです。また、なぜこの作業をするのか等、目的まで記載しておくと農業への理解はより深まるでしょう。

例えば、イチゴの栽培管理で摘果があります。農業初心者にとっては、なぜ実った果実をわざわざ摘むのか疑問に思うでしょう。例のように記載すると、その作業の重要性を伝えることができます。

(例)
・摘果することでなり疲れを防止し、連続出蕾を促す
※なり疲れ:肥料の過不足や低温、花芽過剰などが原因でイチゴの株が弱った状態

専門用語や病状等の注釈が多い場合は、付録として、マニュアルの最後に用語集を追加すると良いでしょう。他にも、その土地の気候にあった作業のタイミングや販路毎の出荷手順を記載するのも有効だと思います。

③ 営業の場面で、農産物へのこだわり等を分かりやすく伝える手段となる

栽培面積を拡大すると、同時に販路開拓も必要になってきます。販路開拓で、農家さんが直接飲食店や百貨店、高級系スーパーに営業に行くことも増えてくるでしょう。栽培マニュアルは、こだわりや現場の様子が詰まっているため、営業でお客様に見せる資料として使うことができます。独自の栽培技術の詳細は一部隠す必要はあると思いますが、オリジナルの栽培マニュアルは、相手に自分の農産物へのこだわりや愛情を伝えるための手段になりえます。

栽培マニュアルと合わせて作りたい栽培暦

例:栽培暦(スケジュール)

栽培マニュアルを作り始める前に、まず、年間の栽培暦(スケジュール)をまとめることをおすすめします。そうすることで農場の1年間の流れを俯瞰してみることができます。栽培作物が多品目の農家さんは、この時点で、どの作物からマニュアル化するか優先付けをするのもよいでしょう。

例:栽培暦(スケジュール)

また、栽培暦に収入や必要作業人数を記載することで、1年間の中でいつ収入があって、収入が無い月がどれだけあるのか、必要作業人数を見ていつから短期雇用を募集する必要があるのか等を把握できます。

栽培マニュアル作成に重要な観点

栽培マニュアルは、家族経営から法人へ経営体を移行させたい農家さんや、生産規模を拡大させたい農家さんが備えるべきだと考えています。それはつまり、技術伝承のタイミングでもあり、栽培マニュアルとしてまとまったものがあると、活用できるシーンが度々訪れます。

加えて、マニュアル作成のツールについて、無料で使えて汎用性があると思うのは、Googleスライドです。複数人で同時編集も可能で、PowerPointやPDFなどの様々なデータタイプに出力できます。圃場で見たい場合は、プリントアウトせずにスマートフォンから閲覧できますし、若手の方にはその方が浸透しやすいかもしれません。営業で使いたい場合は、PowerPointにダウンロードして使用できます。

最後になりましたが、栽培マニュアルは作成者本人が使用するのではないため、誰が見ても分かりやすく現場で使えるものである必要があります。一度作ったものを仲間内で誰かに見てもらったり、初心に戻って分かりやすいかどうか何度も確かめたりしてみてください。気軽にお問い合わせいただければ、筆者である私も農家さんとは栽培マニュアル作りに取り組んだ経験があるので、アドバイスできることがあると思います。

池田夏子

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学生時代にミャンマーの農村部で農業技術支援を経験しました。 農学部卒業後、FOODBOX株式会社に入社。 全国の農家さん向けに経営や販路開拓などをサポート、...

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