生態系は子どもでもつくれる!? ソニーが実証実験を進める「協生農法」って?

社会×環境×農業

みなさんは、ソニーと聞いて、どんな企業イメージを持ちますか。ウォークマンやブラビア、VAIO、プレステ、Xperia…さまざまな商品で有名なソニーですが、実は「協生農法(きょうせいのうほう)」という農業の取り組みを行っているのをご存じですか?

「協生農法」は簡単に言うと、土を耕さず、肥料や農薬も使わずに多種多様な植物を密集して植え、植物本来の力で土壌と生態系を回復させる農作の方法です。三重県伊勢市の大塚隆さんが始めました。

ソニーはこの「協生農法」をアフリカのサハラ地域で実験し、砂漠や乾燥地帯でも作物が育つことを実証しました。さらに最近では、六本木ヒルズの屋上でも実証実験を行っているのです。また、「協生理論学習キット」という教材もつくっており、プランターでもできる方法が紹介されているので、子どもでも始められます。

ソニーが行っている「協生農法」はどんなものなのか、「協生農法」が私たちに教えてくれることは何なのでしょうか。

注釈
協生農法は大塚隆氏が設立した(株)桜自然塾の商標または登録商標です。

参照
六本木ヒルズで協生農法に関する実証実験を開始 SonyCSL
一般社団法人シネコカルチャー

協生農法ってどんなもの?

協生農法は以下の手順で進めます。

  1. まず、果樹を中心に植えます。りんごや柿などの落葉性のものを選ぶことで、落ち葉が土を育ててくれます。
  2. 次に、果樹の周りを囲むように苗を植えます。初めての方は好きな野菜やいい香りのするお花、球根類やイモ類も一緒に植えましょう。
  3. 続いて、苗の間を埋めるように、シダやコケ、地衣類を置きます。
  4. 最後に野菜やお花など、なんでもいいので好きな植物のタネやマメ類を撒きます。嫌光性のものは土に埋め、好光性のものは全体にバラ撒いてください。7種類以上の科のタネやマメを使用するのがポイントです。
  5. タネが発芽し、緑に覆われていきます。植物が定着し、小さな森のようになったら植生が回復したといえます。

上記の仕組みはこうです。

枯れた植物の根は土の中で分解され、空気を通す構造を作るため、耕す必要がありません。植物の葉や花は、枯れると土の上に積もって分解され、肥料の代わりになります。さらに、植物や昆虫、微生物などがバランスをとり、病気や食害を防ぐ一助となっています。こうして、耕さず、肥料も農薬も使わずに行うのが「協生農法」です。

参照
協生理論学習キット 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 一般社団法人シネコカルチャー

1年で砂漠が密林に! ブルキナファソでの協生農法

2015年、ソニーコンピュータサイエンス研究所がアフリカ・ブルキナファソで協生農法のプロジェクトを始めました。

ブルキナファソは、サハラ砂漠の南に位置する国。国民の大半が小規模農家ですが、雨水に頼る農業で気候に影響されやすく、農産物の生産量が安定しません。そのため、常に食料不安があるのです。さらに、40%以上の国民が貧困状態(国際的な貧困ライン:1日1.9ドル以下で暮らす人々)にあります。

そんな状況を解決するため、「あなたたちが生きている環境は、明日の地球の姿だ」という言葉を住民に伝え、50年後にどういう生態系にしたいかを考えたそうです。そこで、砂漠化していた500㎡の土地に協生農法を導入しました。食料生産を安定させるにはどのくらいの種類の植物が必要なのか、穀類は地産地消程度の量を植える、家畜は何を何頭飼育するなど…。

その結果、1年間で砂漠化を逆転。森林生態系の回復に成功しました。育った野菜は150種類。品質の高さが認められ、売上が国民平均所得の約20倍にもなりました。現在も実証実験を続けているそうです。

参照
協生農法™ SonyCSL
「協生農法」がもたらす見えざる“七分の理”――未来世代から資源を奪い続けないために IBM
協生農法実践マニュアル 2016年度版
ブルキナファソ ハンガー・フリー・ワールド

六本木ヒルズで協生農法をするのはまず知ってもらうため

2019年、今度は六本木ヒルズで協生農法の実証実験を始めました。
砂漠の地域で生態系をつくった実績を聞くと、「なぜ大都会の六本木で行う必要があるのか」と思うかもしれません。食料不安のない先進国、特に都市部での協生農法は、優先度としては低いでしょう。しかし、協生農法を普及していくためには、情報や人が集中する場所で取り組み、活動を知ってもらうことが重要なのです。

そんな流れをつくろうと、都市における協生農法の可能性を調査し、農家でない人や教育機関でも実践できる「協生理論学習キット」の開発を進めることにしました。

そこで、六本木ヒルズけやき坂コンプレックスの屋上庭園を舞台に、3パターンの異なる土壌を入れたプランターを用意。野菜や果樹など100種の植物種を配置し、⽣育状態の変化を観察。このプロジェクトを皮切りに、都市部における生態系の提案を行っていくということです。また、協生理論学習キットを活用して、日常生活にも溶け込んだかたちで協生農法を広めていくそうです。

参照
協生農法™ SonyCSL
六本木ヒルズで協生農法に関する実証実験を開始 SonyCSL
生物多様性を取り戻す。シネコカルチャーに学ぶ協生農法とは?【ウェルビーイング特集 #12 再生】 IDEAS FOR GOOD

待ったなしの地球 協生農法はサスティナブルな未来をつくる

ソニーコンピュータサイエンス研究所が協生農法を始めた背景には、農業が生産性と環境破壊のトレードオフである現実があります。人口が増え、豊かさを追い求め過ぎた結果、気候変動や貧困・飢餓など多くの問題に直面しています。2050年には世界の総人口が100億人近くになり、異常気象も懸念されるなかで農業をしていくには、生産性と環境破壊のトレードオフを乗り越える「協生農法」が必要と考えたのです。
こうして2010年に協生農法をスタートし、大塚隆さんによる原形を元に実践と改良を重ねています。

そして、ソニーが行う協生農法の強みは「情報化」です。国内約1,000種類の植物と昆虫をデータベース化。環境や生き物をセンサーを通じて計測し、生態系のモニタリングをすることで、協生農法を常にアップデートしていくことができるのです。

参照
協生農法™ SonyCSL
新しい農法によって、豊かな生態系をつくる。協生農法 SONY
一般社団法人シネコカルチャー
生物多様性を取り戻す。シネコカルチャーに学ぶ協生農法とは?【ウェルビーイング特集 #12 再生】 IDEAS FOR GOOD

「 協生農法」は私たちがより良く生きるヒント

協生農法は、私たちがWell-being(ウェルビーイング)に生きるうえでも良いことです。

Well-being(ウェルビーイング)とは、コトバンクによると「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」のこと。

協生農法を実践することで、「自然に触れる心地よさ」「育てたものを食べられるうれしさ」「人とのつながり」などが生まれます。当たり前のように飲んでいる水や吸っている空気も、生態系サービスがなければ存在しません。こうした価値を知り、「協力して生きる」ことを教えてくれるのが「協生農法」です。

また、「協生農法」では、農業においてあまり好まれない虫や雑草を排除しません。彼らの存在も一助となります。これは、人間社会にも当てはまると思います。さまざまな人がいて、みな違った個性を持っています。ある能力が他の人より劣っていたとしても、別の能力が発揮できる場はあるはずです。協生農法を見習うことで、1人ひとりにとってWell-beingな世の中をつくれるのではないでしょうか。

参照
新しい農法によって、豊かな生態系をつくる。協生農法 SONY
生物多様性を取り戻す。シネコカルチャーに学ぶ協生農法とは?【ウェルビーイング特集 #12 再生】 IDEAS FOR GOOD

まとめ

ソニーが目指すのは、生態系を破壊しない食料生産と、教育や生活にも溶け込んだサスティナブルな未来です。協生理論学習キットは、子どもでも理解できるようにつくられているので、学校や家庭でも始めることができます。まだ知名度が低い協生農法ですが、農業をしない人たちでも当たり前に選択するような未来も近いかもしれません。

Shuhei Miyagawa

フリーランスのライター。ボランティアでキャリア教育と国際協力やってる信州人。農業に関わる人たちの”想い”を届けたい!

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