農業未経験で田舎に移住した東京出身者のリアルな「自給自足生活」とは

地方×農業

日本の人口が減少しているにも関わらず、東京都の人口は依然として増加傾向にあり、今年に入って1400万人を越えました。政府が掲げる「地方創生」という言葉も虚しく、東京圏への転入は2019年で約15万人におよび、「東京一極集中」は今後も続いていくと思われていました。

その状況を良くも悪くも変えてしまったのが、新型感染症と「新しい生活様式」でしょう。リモートワークの導入やサテライトオフィスを設置することで、東京都以外に拠点を置き、一極集中を解消しようとする企業が増えています。働く場所を制限されない働き方が一般化していけば、多くの人々は通勤のために仕方なく生活コストの高い東京都に住む必要がなくなり、郊外や生まれ育った故郷、地方へと移住したうえで働き続けるという選択が可能になるはずです。

実は、私の親族も数年前に「地方移住」を選択しています。1年半ほどは東京と地方を往復する生活を続けていましたが、現在は完全に移住し、在宅での仕事をしつつ敷地内での農業を営んでいます。東京生まれ東京育ち、数十年以上大都会で暮らしてきた彼らが自給自足の生活をするようになるとは思ってもおらず、移り住んだことを聞いた時はかなり驚きました。しばらくは慣れないことも多かったようですが、現在は毎週のように、渓流で釣った魚や収穫した野菜の写真が送られてきます。

「地方移住」と「自給自足の生活」を理想とする人は多いでしょう。しかしながら、「どこに住むか」ひとつ取っても、できることは変わってくるし、やれることも違ってきます。一般化するのが難しいからこそ、ネットで情報を調べてもなかなか真似できず、やがては挫折してしまいます。そこで、この記事では私の親族の体験を元にして、農業経験ゼロの東京出身者が送っている自給自足の生活の様子をお伝えしたいと思います。少しでも参考になれば幸いです。

車がないと始まらない!

「移住して最初にしたことは何か?」と尋ねたところ、まっさきに返ってきたのが車を買ったことでした。東京で暮らしていると、よほどのことがない限りは車が必要になる機会はありません。どこに行くにも電車かバスが出ていますし、買ったものは家まで送れます。しかし、私の親族が移住した場所は、山梨県甲府市から車で1時間以上かかります。一番近くのバス停も、そこに行くまでの道がアップダウンが多くて険しく、食料品の買い出しにも車が欠かせません。幸い、道を歩いている人が少ないため、ペーパードライバーでも安心して運転できるそうですが、狭く急な斜面や、山に沿った長いカーブ、街灯が一切ない真っ暗な夜道を走るときは今でも緊張するとのことでした。東京から地方に移住することを考えている方は、「移住先での移動手段をどうするか?」を考えておく必要があるでしょう。

植えれば育つわけではない

山梨県は、昼と夜の気温差が大きく、年間の日照時間が日本一長いこと、また、年間の降水量が少ないことから、果物や野菜の栽培に適した気候だと言われています。移り住んだ家の敷地内には小さいながらも農地があったため、「物は試し」と農業を始めた私の親族でしたが、最初のうちはがっかりすることが多く、「一体いつになったら自給自足の生活を送れるんだろうか」と悩んでいたそうです。東京にいた頃もベランダで野菜を育てていたそうですが、移住して本格的に作物を育てるようになってから感じた一番の違いは「土」だったようです。長い間手付かずだった土地のため、植えれば育つというわけにはいかず、雑草を抜いて土をしっかりと耕すところから始めなくてはなりません。

昼間は相当に暑く、汗だくになりながら雑草をむしります。蚊と戦いながら土を耕して肥料をやり、野菜の苗を植えます。「葉っぱはよく育ったのに、肝心の実が育たなかった」という前年の反省を踏まえて、今年はしっかりと肥料をやったところ、無事に収穫できたそうです。肥料やマルチシート、野菜の苗は全てホームセンターで購入したものです。もちろんネットでも購入できるのですが、農業経験のない初心者の方は実店舗で購入することをお勧めします。「このくらいの土地があって、何と何を育てたい」と相談すれば、知識のある店員さんが親身になって教えてくれます。

キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、インゲン、梅。初心者でも育てやすい野菜を中心に栽培しています。大きさにばらつきがありますが、あくまでも趣味で自給自足の生活を送るぶんには問題ありません。梅の実は結構な数が収穫できるので、梅酒と梅干し、半々にして作っているそうです。以前お邪魔したときにいただいたのですが、自家製の梅干しは新鮮で、梅が苦手な私でも食べられるくらいに美味しかったです。

大切なのはタイミング

今は完全に移住している私の親族ですが、最初の1年半ほどは「週末は山梨で過ごし、平日は東京で仕事をする」という具合に、二拠点の往復を繰り返していました。もちろん、仕事が忙しくなれば土日も潰れてしまうので、繁忙期に入ると全く山梨に行けなくなるということもあったようです。そうなると、育てている作物にも影響が出てしまいます。往復生活を送っていた頃は「収穫時期を逃して育ち過ぎてしまう」ということが頻繁にあったそうです。お化けのように大きくなってしまったキュウリや、育ち過ぎたあまり筋っぽくなって食べられなくなったオクラなど、例を挙げればキリがありません。「完全に移住するのは難しいので、まずは二拠点生活から始めてみたい」と思われている方は、こういった問題にどう対処するかを事前に考えておくといいでしょう。ちなみに私の親族の場合は、自分が行けないときは友人に頼んだり、近くに住まれている農家の方にお願いしたりなどして、助けてもらいながら乗り切ったそうです。

手間を掛けたぶんだけ美味しい!

大事だとは分かっていながらも、ついつい野菜を食べるのを避けてしまうという方は少なくないはずです。かくいう私も、意識してサラダを注文しない限り、外食では麺類と肉料理ばかりになってしまいます。年々値段が高騰していることもあり、スーパーに行っても野菜を買うのを躊躇ってしまう、なんてこともあります。東京に住んでいると、高いお肉やお寿司を食べるよりも、むしろ「美味しい野菜を食べることの方が贅沢」という雰囲気があるように思えます。私の親族も同じような食生活を送っていたはずなのですが、移住してからは、野菜が中心の健康的な食事に切り替わっていったようです。しかも、無理にそうしているというわけではなく、「美味しいから(野菜を)食べたくなる」のだそうです。

昨年の初秋にお邪魔したとき、その日の朝に収穫したばかりのネギ坊主とノビルの天ぷらをいただきました。親族の家に一泊だけして、その後は甲府や勝沼など観光地を巡りました。色々なものを食べたのですが、一番美味しかったのはノビルの天ぷらだったように思えます。新鮮であるという要素も大きいと思いますが、それ以上に、作物を育てる苦労を間近で見ているからこそ、そのぶん、より一層美味しく感じるのかもしれません。天ぷらを揚げながら言っていた「自作の野菜で作る料理は格別なのよ」という台詞が今でも心に残っています。

OzakiAkira

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フリーライター。インタビュー記事に定評があるせいかインタビューの仕事しか来ないので、他の記事も書きたい。

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