儲かりたいだけの企業は農業参入で成功できない

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「農業に本気でコミットしたいと思っている企業だけに入ってきて欲しい」そう強く語る、FOODBOX株式会社 CEO中村圭佑さん。福岡県の果樹農家出身の中村さんは、農家さんがやりたいことを農家さんが望む形で実現できるように伴走支援する、FOODBOX株式会社を設立(2019年)。

全国の農家さんと幅広くお仕事で関わる中、異業種の企業から農業参入したいとご相談も多いとのこと。今日は、実際に「企業の農業参入」をサポートしている立場としての本音をお聞きしました。

コロナを境に変わる、企業の農業参入の形と消費者ニーズ

画像提供:FOODBOX

一口に企業の農業参入と言っても、農作物の生産だけでなく、農家向けプロダクトを開発したり、農家と消費者をマッチングさせるプラットフォームを提供したりなど、参入の方法は多岐に渡ります。起業当時(2019年)から現在を比べると、コロナを境に企業の農業参入の形やニーズは変化しました。

コロナ前は、土木建設業やリサイクル業等が農作物の生産現場に参入する傾向がありました。一方、コロナ流行から現在にかけては、大手飲食チェーンや、福祉・保育・介護医療系の企業の参入が目立ちます。また、地方の中小企業が耕作放棄地の拡大防止や雇用の創出といった、地域課題解決のために農業参入するケースも増えています。

このように企業の農業参入の形が変わった背景には、消費者ニーズの変化があると考えています。コロナを機にライフスタイルが一変し、自宅で料理や食事をすることが増えました。また、一部の農産物・食品では輸入制限もあり、食や健康への意識が高まるきっかけになったのではないでしょうか。


▲1週間あたりの、自宅における食事の平均回数(2020年1~3月~と4~6月比較)
出典:株式会社マクロミル調べ

食生活の変化だけでなく、休日の過ごし方として、農場や牧場に遊びに行く人も増加しています。私の実家はイチゴ・葡萄・梨の観光農園とカフェをしていますが、団体客が減った代わりに地元の個人客の比率が高くなりました。東京近郊の例では、千葉県木更津市にオープンした農業と食とアートの複合施設「クルックフィールズ」のような場所に、3密を避け自然の中で休日を過ごしたい人が多く訪れるのではないでしょうか。

このような消費者ニーズの変化が、企業の農業参入の形が変わった背景の一つになると考えています。

画像提供:FOODBOX

企業にとって農業参入の最大のメリットは、既存事業とのシナジー

これまでFOODBOXとしてご相談頂いた内容をまとめると、企業の農業参入は大きく分けて5タイプあります。

  1. 何も決まっていないけど、食・農業界で何かしたい
  2. 農作物を生産したい
  3. 課題感を持っているネットワークや既存ビジネスと農業を絡めて何かしたい
  4. 自社でもっているプロダクトを農業に適応させたい
  5. 経営者等がご縁のある地域・国で農業したい

どのタイプにも何かしらの難しさはあるのは否めませんが、3と4のように「既存事業とのシナジー」があるのは、企業の農業参入において、最大のメリットではないかと思います。食・農業界をより良く・面白くしたいと思っている私としても、課題解決意識をもった企業や、業界に新しい風を吹かせてくれる企業の参入は嬉しいです。直近ではL.A.(ロサンゼルス)発のサングラスブランドgoodrさんと、農家さんの目を紫外線から守り、楽しくおしゃれに作業をして頂けるように、農業界でサングラス文化を広める企画にて協業させて頂いています。

「儲かりたい、社会から高評価を得たい」だけでは農業は続かない

画像提供:FOODBOX

参入方法は様々で、それぞれに異なる難しさはありますが、共通して言えるのは「儲かりたい、社会から高評価を得たい」だけの自社メリットばかりを考えている状態では、農業は続きません。

まず、農業において短期的な売上・収益等のインパクトを求めることは非常に難しいです。特に農作物を生産する場合においては、栽培期間が必要になりますし、高品質な農作物を栽培するには長期的に向き合う根気と体力が必要です。また、同じ投資額でも他業界と比べて、農業では回収に2倍位時間がかかることも視野に入れなければいけません。

また、農家向けアプリやサービスの中には、明らかに農家さんの負担が大きい高額な料金設定や、生産現場レベルでは必要機能が備わっているものの、農家さんにとっては操作しにくいアプリもあります。「CSR活動に結び付けられる」「社会から高評価を得られる」のような理由だけで農業参入するのも安易だと思います。

前述した5つの参入タイプのいずれも、農家さんとの協力や地域の方との協力など、人と人とのコミュニケーションをきちんと取れるかが重要です。「現場を重視できるか?現場に入ってやる気があるのか?」と、農業参入を検討している全ての企業に問いたいです。

食・農業界を特殊な業界と捉えず、事実ベースで見て欲しい

食・農業界は都市部や都市近郊ではなく、郊外で栄えているためか、「特殊な業界」と捉える方も少なくありません。食・農業界には食・農業界の心得や人間関係があります。

決して特殊な業界と捉えず事実ベースで向き合うことは、新規参入する前から心得るべき姿勢かもしれません。

農家サイドに躊躇せず踏み込み、農業に本気でコミットする企業の参入を望んでいます。
「儲かりたい、社会から高評価を得たい」だけがモチベーションの企業は、一度踏み止まっていただきたい。

取材協力
FOODBOX株式会社 CEO中村圭佑さん

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池田夏子

学生時代にミャンマーの農村部で農業技術支援を経験しました。 農学部卒業後、FOODBOX株式会社に入社。 全国の農家さん向けに経営や販路開拓などをサポート、...

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